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コラム

地方中小企業の経営者が目指すべき人的資本経営

元日の日本経済新聞では「人的資本経営」という言葉が目立ったように感じました。地方中小企業の経営者が目指すべき人的資本経営とはどういったものでしょうか。

人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

このレポートに書かれているのは

人的資本経営に向けた経営の変革をリードする経営陣、経営陣を監督・モニタリングする取締役会、経営陣と対話を行う投資家について、それぞれが果たすことが期待される役割やアクションについて整理している

といった内容。

そもそも人的資本経営とは何であるのかというところから説明されているので、漠然と自社の取締役会メンバーや管理職、従業員に不満を抱いている経営者にぜひ読んでもらいたい内容です。「人的資本経営」の原点とも言えるものなので、関連のビジネス書に手を出す前に、本レポートへ目を通すべき。

PDF81ページ。まずはエグゼクティブサマリーをざっと把握するところから始めてもよいでしょう。

「人は石垣」だと誇る経営者の実態

ある地方中小企業の経営者が

「私は従業員を大事にしている」

「企業は人が全てだ」

「武田信玄の言葉に人は石垣という言葉がある」

と言っていました。

これらの言葉だけを聞かされていると、さぞ素晴らしい経営をされているのだろうと感じていました。また実際に彼はその自負があるからこそ、私に伝えてくれたのでしょう。

私自身は家業の代表取締役を務めていた際に、早期退職制度を運用し人員数と人件費の削減を目指したことがあります。また管理職の役職定年制度も導入し運用を始めました。業績が窮境に陥る過程で取らざるを得なかった施策とはいえ、人的資本経営の対極のような経営を行なってしまった自覚があります。

この経営者の言葉を聞くと「なるほど、人を大事にしている経営者なんだろうな」と我が身を振り返って反省したものです。

しかし、しばらく経ってから連絡があり「従業員から未払い賃金の支払いを求められている」「雇用時に口約束で条件を提示していた、労働条件通知書などは渡していない」「そもそも雇用条件が労基法を満たしていなかったようだ」「どう対応すれば良いかわからないから助けて欲しい」というのです。

開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。この経営者は従業員を「大切にしてやっている」と思い込んでいても、実際は給料の支払いすら最低限の基準を満たしていなかったのです。

この経営者が良いとか悪いとかを言いたいわけではありません。おそらく多くの地方中小企業経営者の人的資本経営、もしくは労務に関するレベル感は、この会社とあまり変わらないのではないかと思います。

採用が困難を極め、従業員は高齢化し、スキルを持つ従業員が退職してしまうとその穴埋めもままならないのが現在の地方中小企業の実態。従業員をコストとみなす発想から、資本とみなす考え方へ改めることが求められているのが、現在の地方中小企業を取り巻く環境です。

ちなみにこの会社は私の関与先ではなかったので、近隣の弁護士か社会保険労務士に相談するようにのみ助言しました。おそらく私からは無償でアドバイスを得たかったようです。その後は関わりをフェードアウトさせてもらいました。

履歴書

採用活動は人的資本経営の一要素です

私が社会保険労務士を取得した理由

私は家業の代表取締役在任中に社会保険労務士の資格を取得しました。

現在の事務所経営の中心は、地方中小企業に売り上げアップのための知恵とアイデアを提供すること。社会保険労務士の代表的な業務である、社会保険の手続き代行や給与計算といったことはほぼ手がけていないだけに、「なぜ社会保険労務士になったのか」と尋ねられることがあります。

端的に答えると、「従業員と正面から向き合うため」でした。同質性の高い組織であっても経営と従業員の間に対話は必要です。特に業績が窮境に陥っていた家業の地方中小企業では、日々の生ぬるい関係を乗り越えて処遇や将来に関して話し合う必要がありました。そうした機会に経営を代表する者として、人事労務に関しては一定の知見を持っていることを資格で示し、建設的に協議をする必要があったのです。

私が社会保険労務士の資格を持っていたこともあり(日々それなりに事件はありましたが)、投資ファンドに事業譲渡を終えるまで、労使の関係が破綻することはありませんでした。投資ファンドに経営が移ることを説明した従業員説明会も全く紛糾することはなく、ファンド関係者から「このように紛糾せずに終わる従業員説明会は初めてだ」といったコメントをもらったくらいです。

「人は石垣」「人材は人財」「人的資本経営」など根っこの部分は同じ意味を持っている言葉だと理解しています。媚びることなく、尊大になることもなく、心を開いて対話をする姿勢を保つことといった感じでしょうか。地方中小企業の経営者に必要なのは目先の商売にとらわれることなく、利害関係者との対話を駆使しながら組織内の多様性を担保し、常に新しいことに挑戦し続ける文化を創造することです。

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